こども百変(1)
水を異常にいやがる女の子
夏休みになると、プールを訪れる子ども達も多くなります。私が関わっていた学童保育所でも、近くの公営プールへ良く通いました。ある年のこと、連れていったこどものなかに異常に水をいやがる女の子がいました。私はいやがる子は無理にプールに入れないよう配慮し、そばで見学するようにしていました。ところが、その女の子のいやがり方は相当なもので、水しぶきがほんの少し足にかかっただけで泣いていました。本人は自覚はしていなかったのですが、よほどの水に対する嫌な想い出でもあったのでしょう。それは、水に溺れた経験だけでなく、シャンプーのとき眼に水が入ったかも知れませんが、ともかくその体験があまりにも幼い時なので覚えていないのでしょう。
いやなものはいや
この水を怖がると言う気持ちは、そうでない人にはなかなか分からないもので、たまたま私は幼い時に3度も溺れかけた経験を持っていますので、その子の気持ちがよくわかりました。私も小中学校の水泳の授業は、何らかの理由を付けてほとんど受けてはいませんでした。水を異常に怖がっていたこどもの一人だったのです。そんなこどもが泳ぎを覚えたのが、やっと高校になっての夏休み特訓だったのです。この様に、水を怖がるという気持ちは長引くもので、高校で泳ぎを覚えるのはいい方で、おとなになっても泳げない人も世の中には結構いるものです。嫌には嫌の確固たる理由があるもので、一筋縄では好きにできるものではありません。
嫌いを好きにする一戦略
そこで、嫌いのものを好きにするには、ひとつの戦略が必要になってきます。まず、水というものがいかに楽しいものなのかを知ってもらうことです。ここでは、プールでの水遊びが面白いかを知ってもらうことです。決して泳ぎが面白いと言うことから始めないことが大切です。そして、試しにやって見ればわかるからと言って水遊び強制するのは禁物で、それが、どんなに長くかかろうとも、あくまでも自発意志に任せるのです。さらに、言葉で説得するのも、この女の子の水嫌いの程度では有効ではありません。では、どうすればいいのか、私がこの女の子に試みたひとつの例をあげます。それは、先に述べたように、プールに入らなくてもいいし、そばで見ていなくてもいいから、他のこどもたちが遊んでいることが、視野に入り耳に入る所にいることだけは仕向ました。
そんな女の子が水に入る!
しかし、最初の1年は、学童保育所でプールに行く回数が10回程度だったので、その女の子は一度もプールに入ることなく過ぎました。しかし、翌年は他のこどもたちとのつながりができたこともあって、楽しそうに水に入って遊ぶ姿にひかれ、だんだんプールとの距離が縮まり、やがてプールサイドまでよるようになりました。水しぶきがかかるというのに、いやがらずに、そしてあげくのはてには、プールの中の子と水のかけ合いまでするようになったのです。ここまでくればしめたもので、「もし、プールに入りたなったら、言うてや。」とか「今日、どうする。」とかの声かけも合って、遂にプールに入る日が訪れたのです。
こうして、この女の子は卒業までに100m近くも泳げるようになりました。随分と長い道のりでしたが、強制特訓で覚えた私と違い、自らの意志でしかもほとんど独力で泳ぎを覚えたこの女の子、すばらしいではありませんか。未だ水が余り好きになれない私が、さらにうらやましいと思うのは、その女の子は水がとても好きになったことです。生命は水から生まれて来たそうです。また、水は生命をも育んでいるのです。そんな、水が好きになれないのは不幸なことだと思います。水が好きになれないこどもが一人もいない、そんな日が来ることを願いつつ、貴重な経験を与えてくれたこの女の子に、ここに感謝の言葉を贈ります。「教えてもろたのは、ほんまは私のほうやで。ありがとう!」
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