こども百変(2)
本読みTちゃん
彼が学童保育に通うようになって、はじめて私に質問をしたことは今でも鮮明に覚えてます。「先生、太陽系の第5惑星知ってるか?」。1年生の彼は、この質問を幾人もの先生に投げかけては、驚かせてきたのでしょう。ところがどっこい、こちらはこう見えても大学の地質学科卒だったので、きちんと答えてやりました。その時の彼のがっかりした顔のおもしろかったことは、言うまでもありません。彼のお母さんによると、ほとんど一日中本ばかり読んでいたそうです。なるほど、学童保育所でもやはり一人っきりで本ばかり読んでいました。私はあだ名を好ましいと思ってはいませんが、そこで自然とついたあだ名が「本読みTちゃん」でした。保育所は乳児の頃から通っていて、集団生活の中で少しは違う遊びをやっても良さそうに思うのですが、何せ本を読んでいて手のかからない?子どもだったので、そのことは余り気をつけられなかったのでしょう。
知的欲求に賭ける
はじめは、私も様子を見ていましたが、一向に本から離れようとせず、とうとうこれは、何とかしなければと「いっぺん外でも走ってきたら。」と彼に声を掛けました。すると、意外と素直に「わかった」と外の道へ、その後を追って様子を見に行って私が見た光景は、想像を絶していました。確かに、走ってはいたのですが、ただ走り回っていただけで、それも少し中腰かげんに手をほとんど振らず、足だけが走っていてその上に上半身がただ乗っているだけの様だったのです。まるで、ゼンマイ仕掛けの精巧なオモチャみたいでした。これでは、もうお手上げの状態で、もっと根本的な戦略の練り直しを迫られました。彼は本が好きなのです、知的欲求が人一倍旺盛なのです。ではどうするか、その知的欲求に賭けるしかありません。
将棋作戦の発動!
そこで、私が取った作戦は、知的欲求に応えしかも相手がいないとだめな遊び、本将棋の導入でした。まず、本を読んでいる彼のそばで本将棋を知っている上級生と私が将棋を指しました。しかも、黙ってやるのでなく、さもおもしろそうにはしゃぎながら指したのです。甲斐あって、彼はのってきました。「ほーせん、僕にも教えてーや」。こうなればしめたもので、その後将棋が指せるようになった彼は最初は私と指し、続いて他の子ども達と指すようになりました。今まで、一人きりですごす時の多かった彼が、少なくとも室内遊びであるとはいえ、他の子ども達と遊ぶようになったのです。こうして「本読みTちゃん」が、この将棋で培った仲間関係をテコとして、外遊びを含めたいろんな遊びの世界に入っていったのです。もちろん、本が好きなのは依然として変わってはいませんが、「本読みTちゃん」はひとまず卒業したのです。
Copyright (C) 遊邑舎 2000-2002 All Rights Reserved.
|