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第六章 「あそび」の行動学風考察 目次へ 前の章へ 次の章へ

「あそび」は、人間関係の自然塾

 前章では、「遊び」の「おこり」から「すたり」までをみてきたが、つぎに「遊び」のなかで繰り広げられる人間の行動を、こどもの「あそび」を例に考えてみる。「あそび」を始めるのにあたって、とりわけ二人以上でしか遊べない「あそび」を始めるには、その相手を捜す必要がある。相手によっては、「あそぼう」と誘っても動機フリーだから、すぐに受けてくれるこどもばかりではない。「いや!」という答えが返ってくる時もある。そこで、遊ぼうと思っていたこどもは岐路に立たされる。とるべき行動は、「あそび」をあきらめるか、相手を説得するかに分かれるのだ。同じあきらめるにしても、起こりうる状況は、「こういうこともあるか」と納得する場合から、「こんなことがあっていいのか」と根に持つ場合まであり得る。説得にも、泣き落としによるお願いから、脅し半分の強制までいろいろあり得る。


 この様に、「あそび」を仲立ちとして、説得と被説得という、CUT-子どもとハトひとつの人間関係が生まれ、お互いの個性により、その人間関係は多様なものになる。多様な人間関係を経験することは、そこから学ぶことも多いのである。そのことは、「あそび」の始まりの時だけにとどまるものでなく、「あそび」の最中から終わりの時までを含む、「あそび」のすべての過程で言えることである。この様に、「あそび」によっても、こどもたちは意識しないで人間関係のあり方を学ぶ機会をもつのである。その機会は、「あそび」だけではないのはもちろんのことである。しかし、「あそび」が全く無かったとしたら、こどもにとってその機会は貧弱なものになっていたであろうことは、想像に難くない。しかも、面白いゆえに自ら進んでやる「あそび」で学べるのであるから、こんな好都合なことは無い。その意味では、「あそび」は、最もこどもらしい姿で人間関係を学べる塾だといえる。その塾は、進化論風考察の章でみたように、進化のなかで自然が与えてくれた自然塾なのである。さらに、「あそび」は、やっているうちに自然と学べるということを加味すれば、文字通りに人間関係の自然塾になるのである。



時には天国、時には地獄

 その人間関係の具体的な展開をみていこう。遊んでいるこどものそばで、やりたそうに見ている他のこどもがいたとしよう。


「やりたいんやったら、あんたもやってみる?」
「でも、やり方わからんねん。」
「ふーん、そんなら、教えたろか。」
「ほんま!教えてくれんのん、やったー!」


 これは、遊んでいたこどもが心の優しいこどもだったからで、そのまま時間がむなしく過ぎるか、ともすれば次のようなことになるかもしれない。


「そこで、なに見てんねん!」
「なんも見てへん・・・」
「そんなら、じゃまやから、どっか(どこかへ)行って!」
「ケチー、よせて(参加させて)くれたらええ(いい)のに。」


 遊んでいたこどもの側には、「あそび」に参加させてあげる権利も、参加を拒否する権利も持っているのだ。参加を認める側にも、動機フリーの原則が冷酷にも貫かれているのである。たとえ意地悪く参加を拒んでも、「あそび」ではそれが原則として保証されてなければならない。反対に、意地悪な子を参加させない断固とした権利もあるからである。参加拒否の理由が、たとえ首を傾げるものであったとしても、それを見ているおとなは深刻な場合を除き、そっと見ておこう。しかったり、さとしたりするのは、別の機会にするのが、こどものけんかに親(おとな)は出ないというのが、普通のわきまえ方なのである。


 「あそび」をやめるときにも、こどもたちに様々な行動の違いが見られる。力の差がでやすい「カンけりあそび」では、しばしばオニになったまま、なかなか逃げる側にまわれない時がある。私も幼い頃はそうであったが、しまいには、泣き出すこどもも現れる。「あそび」は動機フリーで、やめる自由もあったはずなのに、世の中はそうは甘くはない。その後、こどもどうしのかけひきの結果、泣きながら家に逃げ帰ったり、非情な場合は泣き泣きオニを続けたりの、いろんな経過をたどる。反対に、困り果てた周りの子がオニを代わってくれたり、なだめてくれたりの嬉しい経験も少なくない。世の中は、辛くもあり甘くもある、そんなことを「カンけり」は毅然とこどもたちに知らしめるのだ。そんな泣き虫だった子も、大きくなれば「カンけり」で泣かす方にまわっていたというのが、世のうつりというものである。この様に、「遊び」は、楽しいからと言っても、天国ばかりではない、時には地獄もあるのだ。

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